借金しないと、普通に生きられない国タイランド

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タイは、家計債務が「異常に多い国」だと言われる。
GDP比で約9割。数字だけ見ると、もはや先進国病どころか「借金の達人国家」である。

すると必ず出てくる声がある。
「タイ人は見栄っ張りだから」
「計画性がないから」
「金融リテラシーが低いから」

うん、気持ちは分かる。
分かるが、それはだいたい外野席からの安全な感想だ。

実際のところ、タイの家計債務は性格の問題ではない。
これは社会設計の請求書である。

タイでは、給料が伸びない。
本当に伸びない。
一方で、都市部の生活費はどうだろう。
家賃、教育費、医療費、車、スマホ、ネット回線。
ほぼ準先進国価格である。

つまりこの国は、

「発展途上国の給料で、先進国の生活をせよ」

という無茶振りを、20年以上続けてきた。

当然、帳尻は合わない。
そこで登場するのが、ローンだ。

タイではローンは「失敗」ではない。
「ちゃんと社会に参加している証拠」だ。
車を持つ、バイクを持つ、スマホを持つ。
それらは贅沢ではなく、現代人の入場券である。

日本だと「借金=だらしない」という空気があるが、
タイでは「借りられない=信用がない」という扱いになることすらある。

借金しない美徳?
そんなものは、この国では空気と一緒に蒸発する。

さらに話をややこしくしているのが、家族構造だ。

タイは個人主義ではない。
「家族単位で生きる社会」だ。
誰かが稼げば、誰かを支える。
親の医療費、弟妹の学費、親戚のトラブル。

一人分の人生に、三人分の請求書が届く。

その状態で「計画的に貯蓄しましょう」は、
泳げない人に「落ち着いて泳げ」と言うのと同じである。

足りない分は借りる。
それは無責任ではない。
むしろ真面目すぎる結果だ。

しかもタイは、銀行ローンだけの国ではない。
村の金貸し、職場内ローン、知人ネットワーク。
公式と非公式が仲良く並走する、二重構造社会だ。

統計に出る借金は、表情だけ整えた公式プロフィール。
実態は、もっと生々しい。

それでもタイ社会は、今のところ壊れていない。
なぜか。

人々が「生活レベルを下げる」ことに、あまり抵抗がないからだ。
体面より、生存。
理想より、今日。

日本のように「一度上げた生活水準は下げられない」という呪いが、比較的弱い。

だから借金は多いが、即崩壊もしない。
ただしこれは、綱渡りだ。

金利が上がる。
景気が冷える。
医療費が跳ねる。

この三点セットが揃った瞬間、
この国の家計は、一斉に足元をすくわれる。

では、日本はどうか。

日本は借りない。
借りないが、苦しい。
タイは借りる。
借りるが、生き延びている。

どちらが正しいか?
そんな単純な話ではない。

ただ一つ言えるのは、
タイの家計債務は「だらしなさ」ではなく、
この社会で普通に生きるために選ばされた合理的な答えだということだ。

借金は、個人の失敗ではない。
社会が個人に押し付けた調整弁である。

そしてそれは、日本も他人事ではない。
借りない代わりに、何を削って帳尻を合わせているのか。
その問いを始めた瞬間、
この数字は、急に笑えなくなる。

アイロニーというのは、
笑っているうちに、自分の足元が見えてしまう現象のことだ。

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