日本では“善意の無償活動”とされるプロボノが、タイでは無許可なら不法就労になる

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プロボノとは?

プロボノ(pro bono)とは、専門的な知識やスキルを無償で提供し、社会や公共の利益に貢献する活動のことです。語源はラテン語の pro bono publico(公共善のために)。


🔑 基本的な意味

  • 専門性を活かす社会貢献
    弁護士、会計士、デザイナー、エンジニア、翻訳者などが、自分の専門スキルをNPOや地域団体に無償で提供する。
  • キャリア形成との両立
    本業以外の場で経験を積むことで、スキルアップや人脈形成にもつながる。

👥 ボランティアとの違い

  • ボランティア:誰でも参加できる活動(清掃、募金活動など)、専門性は必須ではない。
  • プロボノ:専門的な知識や資格を前提にした活動(法務相談、会計支援、ITシステム構築など)。

📌 活動例

  • 弁護士がNPOに無料で法務相談を行う
  • ITエンジニアが地域団体のウェブサイトを構築
  • デザイナーが社会活動の広報ポスターを制作
  • 翻訳者が国際NGOの資料を多言語化

⚖️ メリットと注意点

メリット

  • 社会貢献をしながらスキルアップ
  • 新しい人脈やネットワークの獲得
  • 企業にとってはCSRの一環

注意点

  • 無償のため時間的・経済的負担が大きい
  • 本業との両立が難しい場合がある
  • 国によっては「無償でも就労」と見なされる(例:タイではワークパーミットが必要)

🌍 国際的な広がり

  • アメリカ:弁護士は年間50時間以上のプロボノ活動が推奨されている。
  • 韓国:弁護士に年間30時間以上のプロボノ活動が義務付けられている。
  • 日本:2000年代以降、NPOや企業CSRの一環として広がり、特に弁護士や専門職の社会貢献活動として定着。

👉 まとめると、プロボノは「専門性を活かした社会貢献であり、単なるボランティアとは異なる位置づけを持ちます。日本ではキャリア形成やCSRの一環として推奨されますが、タイのように「無償でも就労」と見なされる国では法的リスクがあるため、活動する際は制度の違いを理解することが不可欠です。


ボランティア精神が招く落とし穴、タイで活動する前に知るべきこと

日本で「プロボノ」という言葉を耳にすると、多くの人はポジティブな響きを感じるだろう。弁護士や会計士、デザイナーやエンジニアといった専門職が、自らのスキルを社会に還元する。報酬を求めず、公共の利益のために働く姿勢は「善意の無償活動」として称賛され、キャリア形成の一環としても推奨されている。実際、日本では企業が社員にプロボノ活動を奨励するケースも増えており、CSR(企業の社会的責任)の一環として制度化される例もある。

しかし、この「善意の無償活動」という概念をそのままタイに持ち込むと、思わぬ落とし穴にはまる。タイの労働法においては、「労働」とは報酬の有無を問わず、知識や労力を提供する行為すべてを指す。つまり、無償であっても「働いた」と見なされるのだ。ここに、日本人が抱く「ボランティアだから大丈夫」という感覚と、タイの法制度との間に大きなギャップが存在する。

タイ法における「就労」の定義

タイの外国人労働管理は厳格である。労働省の定義によれば、外国人がタイ国内で行うあらゆる労働行為は、報酬の有無を問わず「就労」に該当する。したがって、NPOや地域団体に無償で協力するプロボノ活動も、労働許可証(ワークパーミット)がなければ不法就労と判断される。

この点を誤解している日本人は少なくない。たとえば「子どもの教育支援のために日本語を教える」「地域のイベントで翻訳を手伝う」といった行為も、善意であっても法的には「労働」となる。観光ビザやノービザ滞在中にこうした活動を行えば、摘発対象となり得るのだ。

違反した場合のリスク

不法就労が発覚した場合、外国人本人には5,000〜50,000バーツの罰金が科され、強制送還やブラックリスト入りの可能性がある。さらに、受け入れ団体側も罰金や刑事責任を問われる。つまり「善意で手伝ってもらっただけ」という言い訳は通用しない。タイ当局は「無償か有償か」ではなく「労働か否か」で判断するからだ。

合法的に活動するための手続き

では、タイでプロボノ活動を合法的に行うにはどうすればよいのか。答えはシンプルで、通常の就労と同じ手続きを踏む必要がある。

  1. 受け入れ先団体を確定する
    NGOや教育機関など、外国人ボランティアを受け入れる資格を持つ団体を選ぶ。
  2. ノンイミグラントBビザを取得する
    日本のタイ大使館・領事館で申請し、招聘状や活動計画書を提出する。
  3. 労働許可証を申請する
    タイ入国後、労働省で「無償ボランティア活動」としてのワークパーミットを取得する。
  4. 滞在延長と定期報告
    ビザは1年ごとの延長が必要で、90日ごとに居住報告を行う。

このプロセスを経て初めて、プロボノ活動は「合法」となる。逆に言えば、手続きを怠れば「不法就労」として摘発されるリスクを常に抱えることになる。

日本とタイの「善意」のズレ

ここで浮かび上がるのは、「善意」の解釈の違いだ。日本では「無償で社会に貢献すること」が美徳とされるが、タイでは「外国人が国内で活動する以上、法的枠組みに従うこと」が前提となる。両者の価値観は対立しているわけではないが、制度の優先順位が異なるのだ。

タイ政府にとって重要なのは、外国人労働市場の管理と国内雇用の保護である。たとえ無償であっても、外国人が活動すればタイ人の雇用機会を奪う可能性がある。だからこそ、プロボノであっても規制の対象となる。

読者への警鐘

「日本では当たり前のことが、タイでは違法になる」――このギャップを理解しないまま活動すれば、本人だけでなく受け入れ団体も危険にさらす。特に在タイ日本人社会では、「ちょっとした手伝いだから大丈夫」という安易な発想がトラブルの火種になりやすい。

プロボノは本来、社会にとって有益な活動である。しかし、タイにおいては「善意」だけでは通用しない。必要なのは、制度を理解し、法的に認められた形で活動することだ。日本人がタイでプロボノを行うなら、「無償だから安全」という思い込みを捨て、まずはビザとワークパーミットを確認することが最低限の責任である。

結びに

プロボノは「公共善のために」という理念を体現する言葉だ。しかし、その理念を実現するためには、活動する国の制度や文化を尊重することが不可欠である。
日本では「善意の無償活動」として称賛されるプロボノも、タイでは無許可なら不法就労になる。この現実を直視し、法的リスクを理解したうえで行動することこそ、真の意味での「公共善」につながるのではないだろうか。

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