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7.2%の断末魔と、微笑みの国の「閉店セール」――盤谷爺が見る政治市場の自然淘汰
バンコクの乾季、その「風物詩」とも言えるPM2.5の鉛色の沈殿が、今年も私の老いた肺を容赦なく締め付ける。街角に立ち並ぶ選挙ポスターは、排気ガスと砂埃を浴びて無残に汚れ、まるで期限切れの特売チラシのようだ。これを見て「王者の椅子の脚が崩れる予感」などと感傷に浸る御仁もいるようだが、この街で28年も泥水を啜ってきた私に言わせれば、事態はもっと即物的で、身も蓋もない「倒産間際の決算報告」に過ぎない。
政治的債務超過に陥った「キングメーカー」
Thai Examiner タイ・イグザミナーが突きつけた「支持率7.2%」という数字。これを衝撃と呼ぶのは、あまりにこの国の「商売」を知らなすぎる。これはアヌティン首相率いるภูมิใจไทย(プームジャイタイ)党という名の政治結社が、市場から「不渡り」を宣告された証左である。
かつては「キングメーカー」として、利益誘導という名の甘い汁を吸わせることで市場のキャスティングボードを握ってきた。しかし、今の彼らは政治的な債務超過に陥っている。古いビジネスモデルが通用しなくなった、ただそれだけのことだ。この数字は、彼らの積み上げてきた「政治的資産」が、もはや紙屑同然であることを冷徹に示している。
「バラマキ」という古臭いOSの終焉
有権者の価値観の物差しは、我々が思う以上に速いスピードで書き換わっている。かつては地方への予算配分という「小銭のバラマキ」が票を保証する担保だった。だが、今の若者たち、いわゆるデジタルネイティブが求めているのは、システムのアップデートではない。「既得権益」というOSそのものの初期化(イニシャライズ)だ。
人民党(オレンジ)への熱狂を「民主主義への渇望」と美化する向きもあるが、実態はもっとドライなものだろう。あれは、旧態依然とした「保守連合」という腐りかけた商品に対する、全国規模の徹底的な不買運動なのだ。
「夫4人公約」――なりふり構わぬ露店の叩き売り
ここで、ある泡沫政党がぶち上げた「女性の夫4人公約」という奇策について触れないわけにはいかない。これを「社会の閉塞感が生んだ悲鳴」などと文学的に解釈するのはお門違いだ。これは、タイの政治市場における極めて合理的、かつ容赦ない「自然淘汰」の原理のあらわれである。
日本の選挙を「高級デパートの包装紙」に包まれた過剰サービスだとすれば、タイの選挙は「路地の露店の叩き売り」だ。そこには建前も倫理もない。あるのは「注目(アテンション)」という通貨をいかに稼ぐかという生存本能だけだ。
「夫4人」という公約は、悲鳴ではない。数パーセントの市場シェアを奪い取るための、なりふり構わぬマーケティング戦略なのだ。スキャンダラスなノイズを撒き散らしてでも生き残ろうとするその姿は、日本の清潔で退屈な選挙戦にはない、生々しいまでの「生命力」を感じさせ、私のような皮肉屋をさえ苦笑させる。
ダボスのシャンパンと、ソイの泥水
視点を広げれば、この国の歪みはより鮮明になる。アヌティン首相はダボス会議の煌びやかな舞台で、タイの輝かしい未来を流暢に語ってみせた。だが、その足元では支持率が一桁台に沈んでいる。この圧倒的な乖離こそが、この国の「リアル」だ。
外向きには美しいタイルを貼り付け、内側ではコンクリートが剥落している二重構造。ダボスのシャンパンの香りと、バンコクの路地裏(ソイ)で日給350バーツのために汗を流す労働者の体臭。7.2%という数字は、単なる不人気ではない。上層部が描く虚像と、国民が直面する生活苦という実像が、もはや接着不可能なほどに引き裂かれたことを意味している。
盤谷爺の独り言:それでも生き抜くための「諦念」
選挙戦の喧騒が激しさを増し、街には大音量のスピーカーから空虚な公約が垂れ流されている。だが、有権者が投票所で突きつけられるのは、高尚な理念などではない。「誰がこの泥沼の中で、明日の食い扶持を運んでくるのか」という、極めて切実で動物的な問いだ。
どの政党が勝とうと、構造的な低賃金や社会保障の欠如といった「建付けの悪さ」が魔法のように治ることはない。2月8日の夜、誰が勝鬨を上げようとも、屋台の衛生状態が良くなるわけでも、庶民の借金が消えるわけでもないのだ。
私が感じる冷めた感覚、それは政治への絶望ではない。選挙という名の「祝祭」が、結局は一部の特権階級による椅子の取り合いに過ぎないという、動かしがたい事実への確信だ。
「お偉方の椅子取りゲームを眺めながら、自分の財布だけはしっかり握っておけ。」
これが、この街で生き残るための唯一の知恵だ。政治に期待するほど、私たちは若くもなければ、おめでたくもない。冷徹な観察者として、この「微笑みの国の閉店セール」を最後まで見届けようではないか。
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