あなたのその働き方、本当に「合法」ですか?

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デジタルノマドの合法ライン、あなたは正しく説明できますか?答えられないなら、この記事を読んでください。


どうも。バンコクの片隅で、かれこれ長いこと飯を食わせてもらっている者です。この街にやってきては消えていく日本人を、それこそ数え切れないほど見てきました。夢と希望に満ちた輝かしい目でやってきて、数年後、あるいは数ヶ月後には、尻尾を巻いて逃げるように帰っていく。その差は、一体どこにあると思いますか?

才能?運?いえいえ、そんなものではありません。ただ一つ、「この国をナメていたかどうか」。結局は、これに尽きるんですよ。そして、その「ナメてかかる」の典型例が、今回のテーマである「不法就労」です。

「微笑みの国」なんていう甘い言葉に酔っていると、足元にあるワニの口に気づかない。今日は、そのワニがどんな形をしていて、どういう理屈であなたを丸呑みにするのか、少しだけお話ししようと思います。

その「常識」、タイではゴミ箱行きです

まず、あなたが日本で培ってきた「労働」の常識を、一旦すべて忘れてください。話はそれからです。
「お金をもらわなければ仕事じゃない」。この、日本では当たり前の感覚こそが、あなたを地獄に導く第一歩になります。

タイの法律が「就労」をどう定義しているか、ご存じですか。
「賃金や利益を得るかどうかにかかわらず、肉体または知識をもって働くこと」。実にシンプルで、恐ろしい一文です。

注目すべきは「賃金を得るかどうかにかかわらず」というくだり。あなたの労働対価が、現金なのか、飯なのか、感謝の言葉なのか、あるいは「やりがい」という名の自己満足なのか。そんなことは、法律にとってはどうでもいい。
あなたが、タイの国土の上で、自分の肉体や知識というリソースを使って「何か」をした瞬間、ワークパーミットがなければ「不法就労者」の完成です。
実に簡単でしょう?

この大原則を理解しないまま、「善意」や「友情」といった美しい言葉を盾にしようとする。それが、一番よくある失敗のパターンですね。

よくある「うっかり」では済まされない落とし穴

では具体的に、どんな行為が「アウト」なのか。
この国でよく見かける「不法就労クラシック」とも言うべき事例をいくつかご紹介しましょう。

1. 「善意のボランティア」という名の片道切符

「子供たちに日本語を教えてあげたい」「NPOで社会貢献を」。
その気持ち、実に尊い。しかし、その尊い行為が、あなたのタイでのキャリアを終わらせるかもしれない。あなたの「知識」を提供するその行為は、紛れもない「就労」です。
タイに「ボランティアビザ」が存在する意味を、少しは考えてみるべきでしょう。国がわざわざそんなものを用意しているのは、それ以外の形での無償労働を認めていない、という裏返しに他なりません。あなたの善意が、法を犯すことになる。皮肉ですが、それが現実です。

2. 「デキる出張者」がハマる罠

日本から颯爽とやってきて、会議で熱弁をふるい、現地のスタッフに的確な指示を飛ばす。日本の会社では「有能」と評価されるその姿も、ここでは「不法就労の動く証拠」になりかねません。
会議に「参加」するのと、会議で「業務を執行」するのとでは、天と地ほどの差がある。その境界線を知らずに、いつもの調子で腕をまくれば、待っているのはイミグレーションの担当官からの冷たい視線、というわけです。

3. 「友情」がアダになる瞬間

友人の店が大変そうだから、ちょっと手伝う。美しい話です。しかし、その友情の代償が、国外退去や罰金だとしたら?あなたを働かせた友人も、不法就労の幇助で罪に問われる。
お互いを思いやる気持ちが、結果としてお互いの首を絞めることになる。
ここでは、日本的な「義理人情」が、時として最も危険なリスクになり得るのです。

【本題】デジタルノマドの合法ライン:具体例で見る「OK」と「NG」

さて、ここからが本題です。最近流行りの「デジタルノマド」。この新しい働き方のために「Destination Thailand Visa (DTV)」が新設され、状況は大きく変わりました。
しかし、これは決して「タイで自由に働ける魔法のビザ」などではありません。その合法と違法の境界線は、非常に明確です。

大原則はただ一つ、「あなたの収入源が、タイ国外にあること」です。
このビザは、あくまで「タイ国外の雇用主・クライアント」のために働く人が、タイに「滞在」することを許可するものです。
タイ国内の市場で、タイの企業や個人から1バーツでも直接的な収入を得ることは許されていません。

言葉だけでは分かりにくいでしょうから、具体的な職種で「OK」なケースと「NG」なケースを見ていきましょう。


【ケース1:ITエンジニア/プログラマー】

  • OK: チェンマイのアパートで、日本のIT企業と業務委託契約を結び、リモートで開発業務を行う。報酬は日本の銀行口座に円で振り込まれる。
    • 理由: 雇用主(クライアント)と収入源が、完全にタイ国外にあるため。これはDTVが想定する典型的な優良ケースです。
  • NG: 知り合いのタイ人が経営するバンコクのスタートアップから、「ちょっとこのアプリの改修を手伝ってよ」と頼まれ、数週間のプロジェクトに参加。報酬として現金で5万バーツを受け取った。
    • 理由: クライアントがタイ国内の法人であり、タイバーツで直接収入を得ている。これは完全な「タイ国内での就労」であり、ビジネスビザとワークパーミットが必須です。

【ケース2:Webデザイナー/ライター】

  • OK: フリーランスとして、海外のクラウドソーシングサイト(Upworkなど)を通じて、アメリカやヨーロッパのクライアントからデザインや記事執筆の案件を受注。報酬はすべてそのプラットフォーム経由で受け取る。
    • 理由: クライアントも決済プラットフォームもタイ国外。あなたの労働力はタイ国内から提供されていますが、経済活動としては国外で完結しています。
  • NG: スクンビット界隈の日本人向けフリーペーパーや、現地の飲食店から直接依頼を受けて、広告デザインやメニューの翻訳・作成を請け負う。報酬は依頼主から直接バーツで受け取る。
    • 理由: 明確なタイ国内での営業活動であり、クライアントもタイ国内。これは個人事業主としてタイでビジネスをしているのと同じです。

【ケース3:Youtuber】

  • OK: タイの旅行や文化に関する動画を制作し、YouTubeに投稿。収入はYouTubeの広告収益(Google本社から支払われる)と、日本の旅行代理店とのタイアップ案件の紹介料のみ。
    • 理由: 広告主(Google)やスポンサー(日本の企業)がタイ国外の法人であり、収入が国外から発生しているため。
  • NG: タイ国内のホテルやレストランから、「うちのプロモーション動画を作ってほしい」と直接依頼され、契約を結び、撮影・編集を行う。報酬はホテルから直接支払われる。
    • 理由: タイ国内企業との直接契約であり、役務提供の対価をタイ国内で得ている。これは映像制作会社と同じ業務であり、ワークパーミットが必要です。

DTVは、タイ市場で「働く」ためのパスではなく、あくまで国外の仕事を持ち込みながらタイに「滞在する」ためのパスなのです。 この違いを理解していないと、せっかくの新しい制度を悪用したと見なされ、手痛いしっぺ返しを食らうことになりますよ。


【ケース4:インフルエンサー】

タイ人と結婚している日本人女性や駐在妻に多いワークパミットなしパターン

インフルエンサーの「無料PR」、その甘い罠

あなたがSNSで見かける「タイ在住の〇〇さんが、新しくできたカフェを紹介!」といった投稿。その裏側で何が起きているか、想像したことはありますか?

多くの場合、店側とインフルエンサーの間には、こんなやり取りがあります。 「今度、うちの店に来て、インスタに投稿してくれませんか?お食事代はすべてサービスしますので」

インフルエンサーはタダで美味しいものが食べられ、店は宣伝になる。Win-Winに見えますよね。しかし、タイの法律の観点から見ると、これは極めて危険な取引です。

なぜ、ただの「お食事」が違法就労になるのか?

思い出してください。タイの法律は「賃金やその他の利益を得るかどうかにかかわらず…」と定めています。ここが肝です。

このケースにおける「食事やサービスの無料提供」は、法律上の「その他の利益(Other Benefits)」に明確に該当します。つまり、店側はインフルエンサーの「宣伝投稿」という労働(役務提供)に対し、「食事」という現物支給で報酬を支払っているのと同じ構造になるのです。

「お金は1バーツももらってない」なんて言い訳は通用しません。
「タダ飯を食って宣伝する」のは、趣味や善意ではなく、立派な商業活動(仕事)なのです。


具体的なNG実例:インフルエンサーA子さんの悲劇
もう少し具体的に想像してみましょう。

  1. DMが届く: 日本人インフルエンサーA子さんのインスタに、バンコクの新しいスパから「施術を無料で提供しますので、ぜひ体験レポートを投稿してください」とDMが届きます。
  2. 安易な快諾: A子さんは「ラッキー!」くらいの軽い気持ちで快諾。スパで至れり尽くせりのサービスを受け、綺麗な写真と共に「#バンコク最新スパ #極上の癒し」といったタグを付けて投稿します。
  3. 水面下のリスク: この時点で、A子さんは「タイ国内の法人(スパ)から利益(無料の施術)を得て、宣伝という労働を提供した」という不法就労の事実を作り上げてしまいました。ワークパーミットはもちろんありません。

では、この後どうなる可能性があるか?

  • 通報リスク: A子さんを快く思わない誰かが、その投稿を証拠として入国管理局に通報するかもしれません。「あの日本人は、観光ビザでタイ国内の店のPRをして稼いでいる」と。
  • 当局の調査: 通報がなくとも、当局がSNSを監視していないと誰が言えるでしょう?特に目立つ活動をしているインフルエンサーは、常にマークされている可能性があります。
  • 結末: 調査が入れば、言い逃れは困難です。待っているのは、罰金、国外退去、そして再入国禁止(ブラックリスト入り)といった厳しい処分です。
    A子さんの楽しいタイ生活は、たった一度の「無料体験」で終わりを告げるかもしれません。

そして、これはA子さんだけの問題ではありません。依頼したスパ側も「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。軽い気持ちのPR依頼が、店側の存続をも揺るがす大問題に発展しかねないのです。

「みんなやってる」は免罪符にならない

「でも、実際に摘発されたなんて話、聞かないけど?」 そう思うかもしれません。確かに、全てのケースが摘発されているわけではないでしょう。しかし、それは「今はまだ見逃されている」だけか、「摘発されてもニュースになっていない」だけかもしれません。

実際に、過去にはライブコマース(ライブ配信での商品販売)を行っていた外国人グループが摘発された事例もあります。当局が一度「見せしめ」として本腰を入れ始めれば、これまで黙認されていた行為が一斉に取り締まりの対象になる。それが、この国の常です。

合法的にこの活動を行うには、タイで「広告業」や「マーケティング業」として事業登録を行い、正規のワークパーミットを取得するしかありません。それは、あなたが思っている以上に大変な手続きです。

インフルエンサーとしてタイの店から案件を受けるということは、「個人事業主」としてタイでビジネスをするのと同じ覚悟が要る、ということ。その現実から、決して目を背けてはいけません。

結論として、どうすればいいか

結局のところ、どのケースにも共通するのは、「自分の身は、自分で守る」という意識です。

「これくらい大丈夫だろう」という希望的観測は、今すぐ捨ててください。
少しでも疑問に思ったら、それは危険信号です。
そして、決して安易に自己判断しないこと。餅は餅屋、法律のことは専門家へ。ビザや法律の専門家に相談する費用をケチるのは、自分の未来を値切るのと同じ行為だと心得てください。

この国は、ルールを理解し、敬意を払いルールに従って税金を収める者にとっては、間違いなく楽園です。
しかし、それを怠る者にとっては、実に厳しい現実を突きつけてくる。あなたがどちらの側に立つかは、あなたの知識と、ほんの少しの想像力にかかっていますよ。

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