タイの暗闇に紛れる「偽りの戸籍」―微笑みの国の裏側で踊る幽霊たち

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中国人のタイ戸籍不正取得に関する事件あるある

タイの青い空を見上げていると、時折すべてが虚構に見えてくる。この国では、アイデンティティすらも屋台のパッタイと同じように、適正価格で注文できる「商品」に過ぎないらしい。2026年、チェンマイののどかな田舎町から漏れ出した腐臭は、もはやスパイ映画の稚拙なプロットを地で行く惨状を呈している。

地方行政という名の「闇市場」

チェンマイ県ウィアンヘン郡で発覚した戸籍不正取得事件。中国系資本グループが糸を引くこの騒動は、単なる書類の不備などという生易しいものではない。タイ警察中央捜査局(CIB)が暴き出したのは、郡長や副郡長、はたまた村長までもが名を連ねる「売国」のネットワークだ。

直近では、チェンマイ市内の食堂で食事を楽しんでいた20代の女性二人が御用となった。彼女たちは、内閣決議を悪用して「国籍取得の権利がある」と偽り、まんまとタイ人になりすましていたわけだ。公文書偽造、職務放棄の幇助、虚偽の証拠提示。地元を愛すべきはずの公務員たちが、小銭欲しさに「タイの魂」とも言える戸籍を切り売りしていたという事実は、もはや笑えないジョークだろう。

十四年間の幽霊:奪われた「人生」

遡れば、こうした事案は氷山の一角に過ぎない。2024年、バンコクのホワイクワンで逮捕された59歳の中国人、通称「Yu」の人生を振り返ってみるがいい。彼は14年もの間、「ヨンユット」というタイ人の名前を借り、いや、その人生を丸ごと乗っ取って潜伏していた。

中国で2億バーツ規模の投資詐欺を働き、タイへ密入国。他人のIDをコピーし、デジタル時代の幽霊として静かに、かつ大胆に生きてきたのだ。彼にとってタイは、美しいビーチがある観光地ではなく、腐敗という名の厚いカーテンに守られた「究極のセーフハウス」だった。内務省がようやく重い腰を上げ、彼の住民登録を削除した時には、すでに奪われた14年という月日が虚空に消えていた。

聖域なき侵食:2025年の狂騒曲

2025年に入ると、この歪みは臨界点を迎えた。
11月にはバンコクの歩道で、4万6000ドルという大枚を叩いて偽造IDを買った中国人実業家が捕まった。さらに12月には、移民収容所で300人を超える中国人の被拘束者が暴動を起こすという、前代未聞の事態まで発生している。

タイ・ミャンマー国境に巣食う詐欺拠点は、もはや一つの「経済圏」だ。強制送還される900人超の犯罪者たち。彼らが操るのはオンラインギャンブルやテレコム詐欺だが、その基盤を支えているのは、やはり不正に取得されたビザやIDだ。
最も皮肉なのは、仏教大学までもが「偽装留学生」の隠れ蓑にされていたことだろう。悟りを開くための場所が、犯罪者の滞在資格を洗浄するランドリーに変貌していたのだから、仏様も呆れて物も言えまい。

崩壊する信用と、それでも生きる術

これら一連の事件がもたらした経済損失は、2025年だけで468億円規模に上ると言われている。だが、真の損失は数字には現れない。タイの行政に対する信頼は地に落ち、国民のIDは国際犯罪のハブへと繋がる「回数券」へと成り下がった。

グローバル化という華々しい言葉の裏で、戸籍という名の人生の鍵が、金次第で誰にでも手渡される。この国を愛する者として、少しばかり胸が痛むのも事実だ。だが、あんた、勘違いしちゃいけない。これがこの世界の「地肌」なんだ。

正義や倫理を振りかざして憤慨したところで、明日にはまた新しい「幽霊」がバンコクの街角を歩いているだろう。我々にできるのは、この不条理を冷徹に見つめ、政府の法改正だの取り締まりだのという甘い言葉を鵜呑みにしないことだ。信じられるのは、自分の目と、そして危うい時に自分を守ってくれる一握りの「知恵」だけ。

この泥濘(ぬかるみ)の中で、いかに汚れずに、それでいてしたたかに笑って生き抜くか。それこそが、盤谷(バンコク)という曼荼羅を歩く唯一の作法なのだから。

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